水野:本を売るために工夫されたことがありますか? という質問があるんですけど。
山田:え……(笑)。
水野:この本がいっぱい売れて、目印のことを世の中に広めたいという茅原さんは、野望のあまり、この機会に聞きたくてしょうがないと。
茅原:『さおだけ屋』では、すごく販売活動をされたんですか?
山田:『さおだけ屋』に関しては、当然、書店回りはしましたが、前の作品で一生懸命頑張った販売網というか、書店員さん、100人以上知り合いがいて、ある程度、土台を作ってからの本だったので、それが最初からうまく稼働しました。でも、まあ、本って出てしまったら、その後はある程度、統制が利かないといいますか。
水野:ということは、これはもう手遅れで。
茅原:手遅れ(笑)。
水野:すぐに販促を始めないと間に合わないんじゃないかと。
山田:手遅れというか、売れ始めたら仕掛けるのはいっぱいあるんですよ。帯をどう替えていくかとか、イベントをどれだけかけていくかとか。実際、初動をどうするかは、みんなものすごくこだわって、アマゾンキャンペーンをやっていらっしゃる人もいますし、その辺は一通りやっていたら、後は運を天に任せるしかないという。
茅原:うーん。
山田:それで、動かないものをどうやって動かすかというのは、著者主導では難しいですよね。書店員さんが気に入ってくれるとか、その辺の……。
水野:『さおだけ屋』さんって何冊目だったんでしたっけ。『女子大生会計士』とかがあってからですかね。
山田:そうですね。小説もあって……。
水野:一番初めのときは、結構いろいろやられたんでしょうね。
山田:そうですね。『女子大生会計士』のときはものすごい……。リュック背負って、本詰めて、都内というか、全国を回るみたいな。
水野:今でこそそういうことやる人はいますけど、当時はいなかった。山田さんが一番初めにやったんじゃないかという伝説が残っているぐらいですからね。
山田:伝説が。多分、そうだと思う。
茅原:へえ。
山田:書店へ行って、自分から棚の整理とか棚の入れ替えとかやる人間っていなかったので。ちゃんと注文を取って、番線をもらって、番線というハンコがあるんですけどね。それをさせてもらえたのは非常に良かった。でも、結局、どこの本屋さんに置いてもらうかというのが大事なんですよね。全部ばらまきゃいいっていうものじゃなくて、自分の本が売れそうなところに、どれだけたくさん置いてもらえるか。自分の本を読んでほしいところ。僕の場合で言うと、『女子大生会計士の事件簿』は会計士の小説だったので、まず大手監査法人がある場所、都内で言うと、飯田橋、八重洲、霞ヶ関はちゃんと回って、あと、会計士受験の専門学校が集まっている水道橋も。
水野:大原とか。
山田:「受験生がいますから絶対買います」というような感じで置いてもらって。
水野:すごい。今からでも間に合いますよ。やっぱり自分でやったほうがいいですよね。ルートができますから。
山田:あとはマスコミさんに取り上げてほしいので、テレビ朝日さんのある六本木、TBSのある赤坂など。そういうマスコミさんがあるところは確実に置いてもらって。
茅原:へえ。
山田:ということは最低限必要。
茅原:かあー……。
水野:今ちょっと見る目が変わりましたね。
茅原:うん(笑)。
山田:そこで売れている感が出てくると、やっぱりマスコミさんも動きやすいので。
茅原:それは本を持って「置いてください」と」回ったんですか。
山田:うん、最初は。途中から「さすがにそれは重い」と気が付いて、注文書を持って行って「10冊とか20冊でいいので」みたいな、書いてもらってという。でも、今はそれは多分できないんですよ。そういう人がいっぱい増えたので。
茅原:はあ。
山田:これもそれこそ早い者勝ちの世界なんですよ。
水野:今でも、まだ手付かずのところもあるはずですからね。要は、自分なりに頭を使って動くと、売るために。
山田:そうそう。絶対に何かあるはず。
茅原:そうか、そうか。
山田:それは、オリジナルなPOPだったり、僕がやったオリジナルの手書き帯とか。
水野:帯ですよね。驚愕でしたね。
山田:うん。手書きで作って「帯を替えさせてください」と。「帯を替えさせてください」は、出版社の人にとっては別に損じゃないですし、既存の帯の上に掛けるだけですから、書店さんにも邪魔じゃないので。
水野:今こちらに70万部のときのオリジナルの帯がありますけど、これも自分で作った著者オリジナルの帯に書店さんで替えさせてもらったと。
山田:それを3年ぐらい前かな、やって。
水野:たった3年前ですか?まだやっていたんですか、そんなこと(笑)。
山田:それは、そのとき開発したので、手書きで入れて。
水野:なるほど。
山田:それは本自体の力が弱かったので、あまり動かなかったんですけど。
水野:でも、その時点で多分200万部とか売れていて、もういいじゃないかという気はするんですね(笑)。
山田:いや、手書き帯は、売れなかった本のときにやったんです。
水野:てこ入れするために。
山田:ええ。
水野:それは執念ですよね。ブランド化といったら、いい言葉じゃないですけど、商品として売れてほしいという。素晴らしいですよね。
山田:結局、初動がうまくいかなかったので、手書き帯とかいろいろな企画を考えて。
水野:これは、この取材が終わった後に作戦会議をそのままやって。
茅原:(笑)。
山田:やっぱり駄目で。でも、それは次に生かすという。
水野:山田真哉さんでも打率10割はないと。
山田:ないです、ないです。そんな2割もないです。2割もあれば御の字。出版業界って、どれだけ売れている作家さんでも半分もいかない。だって、東野圭吾さんですら「あれ? この本、いまいちだよね」という動きの本があるわけですよ。
水野:やっぱりバットを振らなきゃいけないということですか?
山田:うーん、でも、バットを空振りし過ぎると本が出せないですからね。難しいところなんですけど。でも、特に1冊目、エッジが立っていれば取りあえず大丈夫。だから、2冊目をどれだけもっとエッジ利かせるかですよね。
茅原:うーん。
水野:あとは初動が、何もしないでゲッツーになるのを防ぐために、せめて自分で売る努力をして、最低でもフォアボールぐらいにすれば、何とか塁に出れると思います。
山田:そうですよ。何かして塁に出るのが大事ですよね。とにかく塁に出るにはどうすればいいのかということですよね。今、商標という分野なら、弁理士受験生って毎年何人いらっしゃるんですか。
茅原:弁理士受験生は……。
山田:弁理士受験生は、どこに何してどうやっているんですか?企業内にいるんですか。それとも働いている人が多いんですか?
茅原:受験生は、そうですね、働いて、特許事務所が一番多いのかな。
山田:特許事務所ですか。
茅原:うん、だと思います。
山田:特許事務所さんは一応、もう大体回っていらっしゃるんですか。
茅原:いや、これは特許事務所とかそういう本じゃないような気がするんですよね。どっちかというと、個人というか、商標を知らない経営者が本当は一番の狙い目。
山田:でも、狙い目のところって、大体、基本、片思いですよね。
茅原:ああ。
山田:『さおだけ屋』とかがすごく楽だったのは『さおだけ屋』のそもそものコンセプトは、一回会計の勉強をやってみたけど挫折した30代前半男性というターゲットだったんです。
水野:「分かりやすい会計の本」とかを何回も買っちゃうような。
山田:そうそう。そういう人に対して「新しいタイプの会計の本ですよ」という形だけど、一回会計をかじって失敗しているから、全く関係のない業界じゃなくて、ある程度は近いんですよね。商標ってほぼゼロの、全く耕せてないところなので、会計より大変な修羅の道を茅原先生は歩き始めた、と。
水野:素朴な疑問なんですけど、会計士の仕事をしながら本の販促活動もするという時間はどこから捻出したんですか。
山田:当時は大変でしたね。今、もう一回やれといっても多分できない。それこそ独立1年目、2年目だからできた、というのはありますね。『さおだけ屋』は独立2年目。今はお客さんがそれなりにいっぱいいるので、そこまで動けないですよ。
茅原:そうか、じゃあ、同じだ(笑)。
水野:もう今動かないと(笑)。
山田:独立、1、2、3年目ぐらいの、お客さんが取れなくて当然、というときにどれだけ動けるかが大事なのかなと。
水野:もうお時間なので、最後に、これだけはぜひ聞いておきたいということがありましたら。
茅原:そうですね。いろいろ聞いて、もう参考になることだらけで。
山田:いや、似たような業界で実は違う、ということが、僕もしゃべりながら気付きました。商標の世界って相当奥深く未開拓だからこそ、多分、会計とは違う方法論で本が売れていくんでしょうね。
水野:じゃあ、この本はOKということでしょうか? 許していただけた、と。
茅原:許していただけた、ありがとうございます(笑)。
山田:というのも、分野違いなので分からないというのが正解で。多分、何でも、でも絶対、何かマーケットがある。
水野:マーケットがどこかに。
山田:あるある、絶対ありますね。どんな世界、どんな時代でも、そういう専門的なことを分かりやすく教えてほしいというのは、ニーズとしてはあるはずです。商標のことを、池上彰さんが分かりやすく説明できるかというと、池上さんも多分、商標には強くないはずなので、そこは、茅原さんが活躍できるポイントですよね。
茅原:はい。
水野:第二の『さおだけ屋』を名乗ってもいいと。そんなことは言ってないですか。弟子を名乗ってみるとか、勝手に。
茅原:そうですね。
山田:でも、『さおだけ的』なもののポテンシャルは、絶対、茅原先生の中にあるということですね。
水野:ああ、お墨付きが出ました。ありがとうございます。
茅原:どうもありがとうございました。
山田:ありがとうございました。